【内容】
ある企業の例で経営者の心がけを考えます。この企業の販売額は日本のGNP(当時はGDPといわなかった)の1%、輸出額も日本の総輸出額の1%を超えていた企業です。
1.会社の方針は社長が決定する
会社のトップは、更に世界企業にするためどうするかを考えました。「アメリカやヨーロッパの世界企業はどういう組織で、どういう方針で世界戦略を推進しているのか。当社の組織や進め方は果たして世界水準なのか」など、いろいろ考えて世界的なコンサルタント会社マッキンゼーに調査依頼をしました。数か月後に当社のあるべき姿についての提言が行われ、内容は当社の現状の問題点や他社の事例なども全て含まれているものでした。この提言が出た後、社長は、創業者に報告に行きました。当社はいわゆる「オーナー会社」であり、創業者は現役を引退しているものの、相談役として大きな影響力を持っていました。 この報告を聞き、最初の質問は「君は自分の会社の方針を他人に決めてもらうのか」だった、といいます。
2.わからないところは学べ
創業者は奥さんと二人で会社をはじめ、一代で世界企業にまで発展させた経営の神様と言われた人であり、会社のことは隅々まで知っていました。会社の意思決定は全て自分でやってきており、よその会社の人に決めてもらうなどは考えられないことでした。この創業者は小学校4年までしか行っておらず、丁稚小僧から商売を始めた人です。だから絶えず他人に教えを乞う姿勢を忘れておりません。しかし、最後の決定だけは自分で行っていました。 こんなエピソードがあります。会社がある程度大きくなったころに、大学卒業者が入社してきました。ある時工場がもう一つ必要になったので大学出身者に「工場の設計をしてくれ」と指示しましたところ、「私は文科系ですから設計など出来ません」との返事を聞き、「大学というのはエライ不便なところだな。ワシは大学など行っていないので何でもできる。自分がわからないことはわかる人に聞けばいいだけのことだ。」 その大学出身者は必死に設計の勉強をし、専門家に習い、数日後、工場の設計図を完成させました。
3.真剣に実施せよ
さて、トップの心構えですが、「どこまで真剣か」で全てが決ると言っても過言ではありません。最初から丸投げではどんな立派な方針でもモノにはなりません。他人のアドバイスが本当に役立つものかどうか、ピンとくるのは真剣さに比例するからです。 昔、「経営学教科書」というベストセラーを書いたある大学教授が自ら会社を経営し、その会社が倒産したということで話題になったことがあります。経営は人それぞれで、学問などという体系だった理論などはないのかも知れません。
「経営力ということ」 松下 幸之助
商売を発展させていく上で、経営力というものが大切であることは、いまさらいうまでもないと思います。経営力の乏しいところでは、いかに立派な人材を得ましても、その人材が生きてきません。むしろ、その人びとに煩悶を与えることになってしまいます。ですから、会社でも商店でも、それぞれにふさわしい経営力というものがなくてはならないと思います。そういった経営力は、その主人公といいますか、経営する立場にある人がみずからこれを持てば、一番望ましいことはもちろんです。けれども、現実には必ずしもそうではない人もあると思います。 主人公みずから経営力を持たなければ、しかるべき番頭さんに求めたらいいわけです。経営力の大切ささえ忘れなければ、やり方はいくらでもあるといえましょう。 (
PHP研究発行 松下 幸之助「経営心得帖」より(ページ12 〜13) |